IoT、スマートシティ、スマートモビリティ…様々な場面で共通してボトルネックとなる、人間のアテンション。なかでも「いつ」ユーザに情報を提供すればよいか?について研究しています。スマートフォン上でセンシングとAI技術を使い検知した「ユーザが受け取りやすいタイミング」で情報を提供すると、ユーザのフラストレーションが下がり、クリック速度やクリック率、コンテンツへのエンゲージメントが高まることが分かってきました。

 

1. 増え続けるITデバイス、アプリ、サービス、情報…

ノートPC、スマートフォン、タブレット、スマートウォッチ、フィットネスバンドなど、われわれはより多くのモバイル・ウェアラブル機器を使うようになってきています。それにつれ、一人がもつインターネット端末数も増加[87]しています。またそれらの機器を「2つ以上同時に使う」という、「マルチデバイス」な使い方[31]も進んできています。


また我々は、日々、多くのアプリケーションをインストールして利用したり、様々なWebサービスを登録・利用しています。Yahoo Aviateの調査(2014)によると、ユーザは平均95個のアプリをスマートフォンにインストールし、そのうち35個を日常的に使っています[92]。また他の調査によれば、ユーザーは毎月平均8.8個のアプリをスマートフォンにインストールしています(2014)[25]。さらには広く普及した各種のソーシャルネットワークやメッセージングサービスにより、より多くの知人・友人・家族とオンライン上で緊密につながっています。北米での調査によれば、Facebookユーザーの「フレンド数」の中央値は155人[69]です。約70%のFacebookユーザーは、少なくとも毎日一回ログインしており[69]、これは、毎日10億人以上の人達がFacebookを利用していることになります。このように、多くのデバイスや、アプリ、サービス、コミュニケーションチャネルを通じて、我々ひとりひとりがとりあつかう情報の量は爆発的に増えています。

 

 2. 情報システムはよりプロアクティブ(能動的)、よりプッシュ指向に

もうひとつ見逃せない情報システムの変化として、プロアクティブ化(能動化)、プッシュ指向があげられます。UNIX等の伝統的なマルチタスキングシステムの発展と共に、ユーザが「裏(バックグラウンド)で」動かしているアプリケーションやシステムが、よりタイムリーにユーザへ情報を提供できるようにと、「通知」(notification)のシステムは開発されました。

この「通知」が、様々なアプリケーションやWebサービスと共に、近年明らかに多様されるようになってきています。これを読んでいるあなたがスマートフォンを使っている方なら、恐らく分かると思います。あなたのスマートフォンには、日々刻々と、いろいろなアプリやサービスから新着メールやメッセージ、天気の急変、ニュース速報から近くのレストランに至るまで、大量かつ多様な通知が届いているでしょう。

 

 3. 我々人間の「アテンション」(注意)が追いついていない

このように我々にもたらされる情報量が膨大になり、また「能動的」「プッシュ指向」になる中で、一方、我々人間ひとりひとりの「アテンション」(attention; 注意)の量は変わっていません。人間の「アテンション」は computing における新たなボトルネックとなりつつあります。コンピュータからの過度、また過多な通知の割り込みは、我々の生産性を下げたり、また感情面でも悪影響を及ぼすことことが知られています(Interruption Overload)。

 

4. 人間の「アテンション」をマネージメントするシステムの研究

このような状況で情報システムがいかにスマートに、人間のアテンションに対して「適応的に」動作でき、人間とコンピュータの間で調和した状態が実現できるかについて、ここでは2013年から研究をしています。ユーザの「今のアテンション状態」を賢く検知でき、それに応じてユーザのアテンションの邪魔をしないように動作を調節したりして、人間により良いコンピューティングを提供すること、それが「アテンションに適応的な動作」と言えます。(“attention-awareness”, “attention-aware adaptation”)

我々が開発している「Attelia」は、スマートフォンやスマートウォッチなどのモバイル・ウェアラブルデバイス上で、ユーザのアテンションに適応的な情報通知を実現するソフトウェアです。Atteliaは、これらのデバイスで動作するミドルウェアで、デバイスを使うユーザの作業の「継ぎ目」(breakpoint: “メールを書き終わった直後”などのアプリ操作の継ぎ目や、”歩いていて立ち止まった時”などの物理的動作の継ぎ目) を検知します。この検知は、脳波センサなどの特別な生体センサを必要とせずにスマートフォンやスマートウォッチのみでできるためシンプルです。またリアルタイムに検知できるので、検知した結果に応じて様々な動作を行えます。この”breakpoint”は、ユーザへのプッシュ情報通知に適したタイミング (認知負荷を抑えられる等) として以前から研究されており、Atteliaはこのタイミングをリアルタイムに検知できます。このしくみを使って、スマートフォンでの通知の表示を、「情報がサーバから送られてきたらすぐに表示する」のではなく、「breakpointが検知されるまで待ってから表示する」と、通知を受けたユーザの反応はどうなるでしょうか?

 

5. ユーザのフラストレーションを下げ、情報への反応が改善する等の効果が判明

このシステムを、実際にユーザに使ってもらって評価したところ、ユーザの認知負荷やフラストレーションが有意に下がることが分かりました。まずAndroidスマートフォン上でプッシュ通知のbreakpointのタイミングまで少し遅らせて表示したところ、ユーザの認知負荷やが有意に下がる等の効果が明らかになりました (30人 x 16日間の実験。33%の認知負荷の低下) [PerCom2015, PMC]。また、さらにAndroidスマートフォンとAndroid Wearスマートウォッチを組み合わせ、複数のデバイスでbrerakpointを検知させて実験をしたところ、さらに大きな効果が認められました。(41人 x 31日間の実験。71.8%の効果増幅等) [UbiComp2015]

さらに2016年、我々はヤフー株式会社と共同で、このしくみをAndroid版Yahoo! JAPANアプリに実装し実用化して効果を検証しました。「Yahoo! JAPAN」アプリの一部ユーザー(約68万UU)をランダムに選出し、21日間(2016年9月内)に渡りサービス上にて検証を行ったところ、プッシュ通知を開封するまでの反応時間が平均49.7%短縮され、開封数が最大約5.5%向上するなどの効果が判明しました。[PerCom2017] [ヤフー株式会社PR]